『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

カボチャおばけとの約束

これから私が書こうとしていることは嘘の話です。

ですので読んでいるあなたも、ああ嘘の話なんだ、とどうぞ気楽に読んでください。

 

あるところに本の中を旅することが出来る少年がいました。SF、冒険小説、ミステリー、恋愛ものetc.…。

少年はあらゆる本の中に入り込み、そこに繰り広げられる世界をあたかもそこにいるように覗き見ることが出来ました。

 

無口で友だちも少ない少年の、それが唯一の楽しみでした。

「この楽しみのことは決して誰にも言ってはいけないよ」

数年前のハロウィンの日に、この不思議な能力を与えてくれたカボチャおばけと約束して以来、それは少年の中で固く閉ざされた秘密でした。

 

これは、と思った本を一冊選び、ページを開き、瞼を閉じてすっと息を吸い込むだけで少年の姿はたちまち見えなくなり、本の世界にいざなわれます。

反対に「戻れ!」と念じると、またすぐに現実に戻れるのです。

 

ある時、少年はうっかり油断して学校の図書室でそれをしてしまいます。

どうしてもその場で読んで気に入った本があり、すぐにでもその本の世界の中に飛び込んでみたくなったのです。

思うさま本の世界を堪能し、いつものように「戻れ!」と心に念じて現実世界に戻ってきた瞬間、少年はそばに立っていた1人の少女と目が合ってしまいました。

迂闊でした。誰もいないと思っていたのに。

 

しかも運悪くというか運良くというか、その少女は少年が長いこと密かに想いを寄せていた少女だったのです。

少女はもう興味津々。

少年に、しつこくあれこれと質問をしてきます。

少女の無邪気な笑顔と矢継ぎ早の質問に、少年はついに根負けしてしまいました。

 

「実はあれは何年か前のハロウィンでカボチャおばけが…」

 

そこまで言いかけた途端。

机の上に開いていた本から突然に凄まじい突風が吹き込み、気づいたら少年の姿が忽然と消えていました。

後には少女と本が残されたきり。

その後、少年の姿を見る者は誰一人いませんでした、と思いきや。

 

いいえ、少年が最後に読んでいた本の最後の挿絵のページをよくご覧ください。

困ったような、笑っているような、なんとも言えない表情をした少年が、小さく隅の方に佇んでいるのが確認できるはずですから。

 

ハロウィンのカボチャおばけは一見愛らしい見かけですが、怒らせると怖いのです。

あなたもカボチャおばけと何かを約束した際は、その約束を破らないようぜひとも気をつけてくださいね。

 

では。

 

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