『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

「間宮兄弟」

夏から始まって冬に終わる小説を、8月から読み始めて11月も半ばを過ぎた先日にようやく読み終えました。

 

だいぶ昔に買って今までにも数回読み返している本なのですが、久々に読みたくなってちょこちょこ休憩を入れつつ楽しみながらページを繰りました。

 

明信と徹信。

大人になっても仲が良いふたりの兄弟のほのぼのとした日常と淡い恋を中心に、彼らを取り巻く人々との人間模様が描かれています。

大きな展開も胸を刺すような強い言葉も特には無いけれど、そこが良いです。

 

読み終えて、しばらく忘れて、そして時々思い出したようにこの本に手を伸ばしたくなるのは、温かで親密な想いも、苦くてひりつくような感情も、同じように優しく包まれているからかもしれません。感情移入しすぎない言葉と表現で、静かに淡々と。

 

夏の陽射し。

秋の夜風。

冬の情景。

文字だけの世界なのに読むだけでその感覚や光景が一瞬にして肌や目に伝わって、広がって、引き込んでしまう江國さんの季節の描写力も、とても好きです。

 

そして、多くの楽しい時間を共有しながらもお互いの領域には決して深く立ち入りすぎない"きょうだい"というものに、ひとりっ子の私としてはとても心惹かれるのでした。

 

近しい誰かの日常にふと触れたくなった時。

太平楽な心持ちの時。

そんな気分の時に手に取りたくなる本です。

古く懐かしい友人に、時々無性に逢いたくなるように。

 

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