『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

「ベニスに死す」

少し前に『ベニスに死す』という古い映画をテレビで観ました。

1971年公開の、イタリアとフランスによる合作映画です。

 

1人の初老の音楽家が、静養のためベニスに訪れるところから物語は始まります。

 

そこで音楽家のグスタフは美しすぎる貴族の少年タッジオに出会い、強く惹かれてゆく…というのが主な内容なのですが、セリフも説明描写もほとんど無く、静かで不思議な映画でした。

 

ほぼ全編、寡黙な初老男性が美少年に湿度の高い熱視線を注ぎ続けるだけの場面で構成されているのですが、2人の間には「同じホテルの宿泊客」という以外の接点は無く、接触も無く、これといった展開もありません。

 

取りようによっては動きの少ない退屈な映画なのですが、表情だけの演技や断片的に現れる過去の回想シーンによって、グスタフの人物像や揺れ動く心理にあれこれ想像力を働かせて「面白い」や「好き」だけでは語れない、独特の鑑賞方法を楽しむことが出来ました。

 

とにかく少年タッジオを演じたビョルン・アンドレセン君がひたすらに美しいです。

笑ったり、食事をしたり、クラシカルな水着で浜辺を歩いたり…etc.

なんて事ないシーンなのに、綺麗すぎてため息が出ます。

 

じっとり絡みつくようなおじさんの熱い視線に物ともせず、真っ直ぐに受け止めて艶かしい眼差しで見つめ返す瞳が印象的でした。

公開当時、日本でもアイドル並みの人気だったとか。

そりゃおじさんも惚れちゃうよ!と思う一方で、この映画が1970年頃の映画だということにひどく斬新さも感じたのでした。

 

暑い夏の休日。

ちょっと気怠い午後。

お酒でも飲みながら、だらだら観るのに似合う映画かもしれません。

 

アンニュイで、哀しくて、美しくて。

そして、どこか滑稽で。

興味を持った方がいましたら、機会のある時にぜひご覧になってみてください。

 

 

【映画データ】

 1971年 イタリア・フランス合作

 監督:ルキノ・ヴィスコンティ

 出演:ダーク・ボガード(グスタフ)

   ビョルン・アンドレセン(タッジオ) 他

 

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