『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

大事なものは、細部に宿る

“もし職場に郵便物が届いていたとして、
あなたがそれを開封する係だとしたら
どんなふうに開けますか?”


もう何年も前、無職で仕事を探していた時に
面接を受けた会社で、そんな質問を
されたことがありました。

丁寧に開けますか、それともあまり考えず
びりびりと開けますか、と重ねて聞かれたので、
ああ、それなら。
即答で「丁寧に開けます」と答えました。

その時の面接官は2人でした。
主任のような若い女の人と、
幹部らしい年配の男の人。

私がそう答えると一瞬の沈黙が流れ、
2人はやれやれ、といった表情で
苦笑すると、女の人のほうがこう言いました。

大事なのは封筒ではなくて中身でしょう。
余計なことに時間はかけない、何を優先するか
瞬時に見定めることが、社会にとっても
会社にとっても必要なことなのですよ、と。

これからよく覚えておいた方がいいね。
女の人に重ねるように、年配の男の人が言いました。

なるほどと思いつつ、私はどこか
納得がいかなかった。

わかるけど、でも。
でも、でも、でも!

悶々とした気持ちを抱えたまま帰宅をして、
その数日後、私は面接に落ちました。

面接を受けたその日にうすうす結果はわかっていたし、
とくに残念とも思わなかった。
未練も後悔もありませんでした。
むしろお互いのために良かった、と思ったぐらいで。

確かに無駄を省いて効率を上げ、
少しでも利益を増やすのは、会社として
大事なことかもしれません。

ただ、どんなに些細なことでも、直接の結果に
つながらなくても、心を込めて丁寧に仕事を
行うことだって、大事なことではないのかな。
そんな疑問が頭をもたげます。

そういうゆとりが、大きなことに
繋がっていくことも、きっとある。
だって封筒を乱暴に開けたら、
中身がしわになったり
破けたりすることもあるでしょう?

同じ質問を今されても、
やはりあの時と同じ答えを選択したい。
そういう人でいたいと思います。
丁寧に、余裕を持って。

無駄を省くことは大切なことだけど、
省きすぎてしまったら
大事なことも省けてしまう。
そんなふうに思うのでした。

そして仕事の大抵のことは、
そんなちまちまとした時間
を切り詰めることよりもっと
大胆な工夫次第で劇的にどうにかなるもの。

理想通りにいかない日だって
もちろんあるけれど、
せめて気持ちだけでも。姿勢だけでも。

大事なものは、細部に宿る。
そんなふうに信じて実行できる
人間でありたいものです。

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