『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

「ベティ・ブルー」

『ベティ・ブルー』という映画が好きです。

1986年に公開された、フランス映画。
ベティという感受性の強い女の子と、
ゾルグという作家志望の男の人。
副題に確か「愛と激情の日々」とあって、
文字通り、二人の激しい愛を描いた物語です。

相手のすべてを呑み込んで、
焼き尽くしてしまうような。
そしてそれゆえに苦しくて、
痛々しいような。

でもどこか静謐で、やさしさがひっそりと
漂ったとても美しい映画です。

アパートで1人暮らしをしていた頃、
レンタル屋で借りてこの映画を観ました。
以来、私の中でとても大事な映画の一つになっています。
今でも時々ふと思い出してはコマ切れに観てしまう。

その映画の中で特に好きなのが、
ベティが20歳の誕生日をゾルグに祝ってもらうシーン。

少し小高くて見晴らしの良い丘に
ベティを連れて来たゾルグは、
彼女を丘の上に立たせます。

そして遠くに見える城壁や、大きな岩や、
近くに可愛らしく佇む石造りの家を見せます。

ゾルグはベティに向かって言う。
「すべて君のものだよ、ベティ」

ベティはめくるめく幸福に満ちた目で
彼を見つめ、問いかけます。
この光も、鳥のさえずりも、
自分を見つめるゾルグの目も唇も、
自分のものかと。

穏やかな微笑みを浮かべながら
ゾルグはそっとウィ、と答えます。


この映画は、私の中で秋の映画です。
二人は常に薄着だし、公開の時期も
この季節ではなかったはずなのに。

たぶん、全編を多く彩る藍に近い深い青と、
少し物悲しい音楽が「秋」を
連想させるのかもしれません。

とても美しい映画です。
こんなふうにぴったり1つの対でありたいと
切望するように恋人を愛せることが、
怖くもあり羨ましくもあり。

でも人の心のどこかしらには、ひっそりと
潜んでいるのかもしれないですね。
私やあなたにとっての、ベティやゾルグが。


青く澄んだ秋空が、とても気持ちの良い今日です。