『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

「Smoke」

クリスマス、
楽しく過ごされましたか?

クリスマスと日曜日は
似ているな、という気がします。
日曜日の夕方がすでに
日曜日でないのと同じように、
クリスマスもまた
時間の移ろいとともに
ワクワク感や華やぎは
徐々に消えていってしまう。
今年は12月25日が
日曜日なこともあり、
余計にそんな気がします。
ふわりと揺れて、漂って、
やがては気配さえ消えてしまう
煙のように。

・  ・   ・   ・  ・  ・ 

先日、映画『Smoke』
http://smoke-movie.com/
を観て来ました。
1995年公開のこの映画が
今冬デジタルリマスター版で
再上映されるということを
あるきっかけで偶然知ったのです。
良さそうだな、と以前からずっと
気になっていた映画でした。


ブルックリンで煙草屋を営む
オーギー、その常連客で作家の
ポール、そして彼らを取り巻く
人々の人間模様が交錯する物語、
大まかに説明すると
そんな内容の映画です。


登場人物たちはそれぞれに、
ある「痛み」を抱えています。
大切な人を失ってしまった痛み。
かけがえのない時間を
失ってしまった痛み。
その痛みは帳消しにはできません。
お互いにそれを知りながら
それぞれがそっと寄り添い、
いたわり合う姿が小さな
灯のように温かで優しくて、
胸がぎゅっとなりました。
悲しみを知っているからこそ、
人は人に対して本当の優しさを
見せることができるのだと、
そしてその姿がうわべ
だけではない温かさを生むのだと、
あらためて教えてくれた
素敵な作品でした。


映画のラストに、オーギーが
ポールのために語る
クリスマスのエピソードが
音楽と映像だけで流れます。
温かいチキン、ぐっすりと
眠る老婦人、そしてカメラ。
ドアを開けてオーギーと
ハグした後、小さな真実に
ふっと気づく老婦人の表情の
変化がなんとも秀逸で切ないです。


嘘か、本当か。
煙のように掴みどころない、
でもとても温かで幸せな
余韻を残してくれた映画でした。
エンディングにあの名曲
『煙が目にしみる』が
流れるのもまた心にくい演出で。


今年のクリスマスは
あとわずかで終了ですが、
この冬、心を潤してくれる
映画を探している方に
『Smoke』はぜひとも
おすすめです。
一度観ている方にもぜひ、
もう一度映画館で味わって
いただきたい良作です。


少し苦くて、美しい。
煙のような味わいをあなたにも、ぜひ。



映画データ
【Smoke(スモーク)】
公開:1995年/アメリカ・日本・ドイツ合作
監督:ウェイン・ワン
原作:ポール・オースター 
 「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」
出演:ハーヴェイ・カイテルウィリアム・ハートほか