カボチャのランタンを窓辺に飾り終わると、もう結構な時間になっていたので、夕飯はあらかじめ用意していたライスと作りおきのシチューだけで済ますことにした。
1人の食卓になってもうすぐ1年になろうとしている。が、気楽さには慣れたものの寂しさには相変わらずまだ慣れないままでいる。
せめて、とマチルダは思った。
せめて家の中に猫か犬でもいてくれれば違っていたかもしれないのに、と。
1人息子のジョシーが独立し結婚して家を出てからというものこの5年、夫のトーマスと2人で静かに暮らしてきた。
ささやかながらも幸せで、穏やかな時間に満ちた夫との生活。それがこんなにもあっけなく終わってしまうなんて思いもしなかった。
今も折にふれ涙が滲んでしまうけれど、毎日泣き暮らしていた一時期に比べればだいぶましになった。
あの頃は心配したジョシーが毎晩電話をかけてくれたし、近所に住む友人のエイミーも頻繁に様子を見に来てくれていた。
そして何より、時間が解決してくれた。
思い出は決して無くならないけれど、悲しみはきちんと少しずつ癒えるものなのだということをマチルダは身をもって実感した。
それでも。
窓の外の薄闇に視線を移しながら彼女は思う。
空には丸い月がぽっかりと浮かび優しい光を投げかけている。
それでも寂しいわ、トーマス。
こんなハロウィンの夜に、一緒に素敵な満月を見ることももう出来ないなんて。
いっそのこと、亡霊でもいいからここに現れてくれればいいのに。
と、その時ー。
コン、コンコン。
ノックの音が聞こえてマチルダは小さく飛びのいた。
ドキドキしながら、そしてこわごわと「どちらさま?」と聞き、ゆっくりとドアを押し開けると。
「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」
サングラスにブラックスーツでキメたリトルギャングがそこに立っていた。
「まぁ、ポール!」
孫のポールだった。
オモチャの銃をカチカチいわせながらこちらに向けて遊んでいる。
めったに会えない可愛い孫が、今、目の前に立っている。
後ろにはジョシー夫婦も立っていて、私たちの様子をにこやかに眺めていた。
「ハロウィンだからね。遊びに来たよ」
息子一家の突然の来訪に驚きつつ、マチルダは彼らとの久々の再会を喜んだ。
ドアを大きく開けて彼らを招き入れながら
「大したものはないけれど、お昼に焼いたパイがあるわ。さあ、入って」と言った。
トーマスは来てくれなかったけれど、その代わりジョシーたちを連れて来てくれたのかもしれない。私が寂しくないように。
少し大きくなったポールの頭に優しく手を置きながらマチルダはそんなことを考えた。
窓辺に置いたカボチャのランタンの灯が一瞬大きく燃え、また元に戻り部屋を暖かく照らした。