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『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

『運命の恋人』(本)

年が明けて、2016年になりました。
日々はあっという間に過ぎてゆきますね。
大事に大事に過ごしていこう、とますます強く思う最近です。


久しぶりに本のことでも…と思い
棚に視線を巡らせたところ、
ちょうど良い作品と目が合いました。
『おめでとう』というタイトルの短編集です。


出版年は2000年。
私が川上弘美さんという小説家を
好きになった、最初のきっかけの本です。


『運命の恋人』は、収められている
12の短編の中で11番目の作品になります。
恋人が突然桜の木のうろに棲み始める、という
ちょっと奇妙なところから話は始まってゆきます。
そして現実と非現実の分量と境目は少しずつ
ぐにゃり、とゆがみ面白く形を変えていきます。


うろに棲み始めた恋人には、
変化が見えるようになります。
少しずつ毛深くなったり、指と指の
間に綺麗な水かきができるようになったり。
でも主人公は、それを驚きもせずに
淡々と受け止めているのでした。


やがて別の男と結婚し、子どもができ、
子孫が1000人を数えるようになった頃、
彼女はふと昔の恋人を思い出し、
彼に会いに行きます。


かつて恋人同士だった2人の、
消えない灯のように強く
惹かれあっている関係性が、
さらりとユーモラスに描かれていて、
それがとても胸を打ち、
同時に気持ちをふんわりと
温めてくれるのでした。


運命の恋人。
時を経て、遠く違う場所にいても、
想っていられる人がいる。


そういう人が心の片隅に存在するということは、
それだけで人生の彩りが豊かに
なっていくことかもしれないですね。


12篇目の表題作『おめでとう』も
韻を踏んだ詩のような、
お正月らしくとても素敵な作品です。
少しだけ引用しますね。


“ おめでとう、とあなたは言いました。
おめでとう。まねして言いました。
それからまた少しぎゅっとしました。

 忘れないでいよう、とあなたが言いました。
何を、と聞きました。

 今のことを。今までのことを。これからのことを。
あなたは言いました。
忘れないのはむずかしいけれど、
忘れないようにしようとわたしも思いました ”


新しい一年が始まり、
寒い寒い日々がもう少しだけ続きます。
けれど心はできるだけぽかぽかでいたい。
できればあなたにもぽかぽかでいてほしい。
そんなふうに思う新春。
星が、とても綺麗な夜です。


おめでとう (新潮文庫)