『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

旅というものについて

土地に強く惹かれて旅に出る、ということが
何年かに一度たまにあります。
とくに理由もなく、目的もなく、ふっと。

伏線のようなものはいくつかあったものの、
今年の夏ごろから急にじわじわと
名古屋に行きたいと思い始め、
それで先日行ってきました。

最初は小さな種のようだった
「行ってみたい」というその気持ちは、
日ごとに大きく、強くなり
まるで雪だるま式のようにふくらんで
いつしか「行かなきゃ」という
見えない何かに引っ張られるような
性急な気持ちで、ある寒い秋の夜に
高速バスに乗り込んだのでした。

名古屋は素敵な土地でした。
明るく、元気で、パワーに溢れていて。
人は親切だし、文化的で、食べ物もおいしい。
お洒落な人たちもたくさん町で見かけました。

もちろんそうじゃない名古屋もたくさんあるだろうし、
これはたった数日の旅で垣間見ることができた
私だけの名古屋感なのだけど。


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旅の2日目に、熱田神宮に行きました。
1900年以上の歴史を持つ、
とても大きな神社です。

祝日で、先勝ということもあって
午前中は結婚式や七五三の家族で
境内はおおにぎわい。

やわらなか木漏れ日に目を細めながら
長い参道といくつもの鳥居を抜けて、
本殿の前へ。
大切なお願いを1つだけ、してきました。

もっと厳粛で、思わず居住まいを
正さずにはいられないような雰囲気を想像していましたが、
実際の熱田さんはその場に立つと
とても穏やかで優しい気配を持つ
やわらかな神社でした。
佇んでいると、とても居心地が良かった。

神宮参拝の後。
身が厚く、ほっくりとやわらかいひつまぶしを食べ、
名古屋城を見物した後に、栄生(さこう)という町に行きました。

父方の祖父が、晩年を過ごした町です。
私は祖父に会ったことがありません。

放蕩の限りを尽くして家を追い出され、
世間では「二号さん」と呼ばれる女の人と長く暮らし、
最後はパチンコ屋で遊んでいる最中に倒れて亡くなったという、
ある意味波乱と激動に満ちた生涯を送った祖父。

ちょっとくたびれて古びたようなその町は、
でもどこか肌に馴染んだ服のように
心地良いくったり感があり、
なかなかに住み良さそうでもありました。

祖父はこの町でどんなことを感じながら生きていたのだろう。

駅前のコメダ珈琲店でブレンドとシロノワールを食しながら、
そしてキャリーバッグをガラゴロいわせながら、
そんなことを考えて夕日のオレンジと夜の藍が混じった空の下、
栄生の町を後にしたのでした。

祖父の血と遺伝子は私の中の一部に確実に残り、
存在している不思議さに思いを馳せながら。

思い返せば、こうして私が何かに憑かれるように
旅に出るのは、大きな何かを失った時という
タイミングが多いように感じます。

失った何かを埋めるように、そして
その失った後の新しい日々をまた元気に進めるように
私は旅に出るのかもしれない。

そういえば熱田さんには三種の神器と呼ばれる
草薙御剣(くさなぎのみつるぎ)が祀られているのだとか。
スサノオノミコトが大蛇を退治した時に
切れた尾の一部が刀になったという伝説の剣。

霊験あらたかな神剣にスパッと何かを切ってもらい、
自分のルーツに立ち戻り、また新たな道を進んでゆく。

この名古屋旅は、もしかしたら
熱田さんと祖父に呼ばれた
旅だったのかもしれない。

名古屋の町並みや出会った人たちのことを
温かく思い出しながら、今、そんなことを考えています。

非日常が、日常にパワーをくれる。
日常が、非日常をより新鮮に豊かに見せる。
だから私たちには、その両方の世界が
必要なのかもしれません。

旅は、良いものですね。
今さら言うまでもなく。
今度突き動かされるように旅に出るのは
何時なのだろう。
何処なのだろう。
考えると、とてもわくわくしてきます。



あなたは心に残る旅を、してますか。
そしてそれは何処なのでしょう。
いつかお話できるといいですね。


あてのないふわふわしたことを思いつつ、
今日はここまで。


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さ、張り切って今日も歩くよ。#名古屋旅 #2日目 #NAGOYA #出発 #start