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『転がる石の上機嫌』

転がって、転がって、小さな善きものがあなたに届けられますように。

同じ分量の夜と昼

「私は、たぶん、飛び付く速度が少しばかり早いのだ。
 そして、抱きしめる力が、強いのだ」

山田詠美 『A2Z(エイ・トゥ・ズィ』)

A2Z (講談社文庫)

A2Z (講談社文庫)



これは、恋の物語です。
大人だけれど、
大人であることを忘れてしまうほどに
度を失って恋をしている人たちの。


誰かを“愛している”と思う瞬間、人は自分と同じくらい相手も自分を想ってくれたらいいのにと思いがちです。同じ分量で。
バランスが真ん中になるぐらいに。


でもそうなることは極めて稀で、
もしそれが叶ったとしても、
その瞬間は永遠ではない。


だから不安になる。
寂しくもなる。
そして長く続かないことを知っているからこそ、
大人になるごとに人はその瞬間を
楽しみ尽くそうとする。
その術に長けるようになる。

幸せを長続きさせる秘訣は、
スピードとパワーなのかもしれない。
最初にこの小説を読んだのは
もうかれこれ15年前になるけれど、
冒頭で紹介した一文を読んだ時
雷に打たれたようにそう思いました。


最近また再読してあらためて思うのは、
それは恋のことだけではないということ。
人生においても、世界においても。


今、あなたにとって、
そして自分にとって
本当に必要なものは何なのか。
必要な人は誰なのか。
それを見極めるスピードと、
見極めたら離さない力強さが
求められているような気がします。


ゆっくりと、でものんびりとし過ぎないで、
考えていけたらいいなと思っています。


余談ですがこの小説の中で
好きなシーンの1つが、
夜に主人公の夏美とその恋人の成生が、
二人で電話しながら同じ月を眺めるところ。
「おいしそうだから」と、
二人一緒に“せーの”で月を食べるのです。


ふふ。可愛いでしょう?


恋をする楽しみを味わい尽くしたすべての大人たちに。
そしてこれからたくさんの恋が待ち受けているであろう恋愛予備軍の人たちに。


おすすめの一冊です。